日本語の指導が必要な児童生徒と、その保護者へ同じ内容を届けるとき、母語に翻訳した版と、日本語をやさしく書き直した版のどちらを用意するかは、読み手と用途によって分かれます。
文部科学省が2026年7月31日に公表した外国人の子供の就学促進と日本語指導に関する取組事例によると、英語版の学校案内を作成した自治体や、母語で相談できる担当者を置いた自治体があるとされています。
配布物や教材を作る側から見ると、母語に訳すのか日本語のまま書き直すのかで、用意する版の数も紙面の作り方も変わります。本記事では、母語への翻訳と日本語の書き直しをどこで分けるのかを、制作の手順とあわせて解説します。
目次
母語への翻訳と日本語の書き直しは、読み手ごとに使い分ける
母語に翻訳した版は、届けたい家庭の母語の数だけ用意することになります。同じ学校に通う児童生徒の母語が一つに揃うとは限らないため、家庭ごとに母語が異なれば、その数だけ翻訳版が必要です。
日本語をやさしく書き直した版であれば、母語の異なる家庭にも一つの版で届けられます。日本語に不慣れな人へ向けて日本語を書き直す方法は、出入国在留管理庁と文化庁が2020年8月に公開した在留支援のためのやさしい日本語ガイドラインにまとめられています。
やさしい日本語とは、難しい言葉を平易な語に言い換え、一文を短く区切り、漢字にふりがなを付けて、日本語に不慣れな人にも分かりやすくした日本語です。
版の数だけを見ると、日本語の書き直しで揃えるほうが手間は小さくなります。ただし、書き直した日本語で読めるかどうかは相手の日本語の習得状況によるため、想定する読み手を鑑みてどちらを渡すのかを決めることになります。
保護者に渡す就学の案内は、母語に翻訳する
就学の手続きを案内する文書には、母語で読める版が必要です。提出の期限、費用、持ち物といった読み違えると手続きが止まる内容を含んでおり、読むのは日本語の授業を受けていない保護者だからです。
文部科学省が公表した取組事例でも、多言語の学校案内を配る取り組みや、母語で相談を受ける担当者を置く取り組みが挙げられています。相談の窓口で母語の説明を受けられる場合でも、家庭には配った文書だけが残るため、期限や持ち物を後から確かめられる母語版が必要です。
学校からのお知らせは、公開されている多言語の定型文から作る
欠席の連絡、行事の案内、給食費のお知らせのような定型的な文書は、自分たちで訳す前に、公開されている多言語版を探します。文部科学省のかすたねっと 多言語お知らせ文書で、学校が使う定型文書の多言語版が公開されています。
かすたねっととは、外国につながる児童生徒の指導に使える教材や多言語の文書を、文部科学省が集めて公開しているWebサイトです。
公開されている定型文を先に探しておけば、新たに訳す範囲を学校ごとの固有の事情に絞れます。翻訳を依頼する量が減るぶん、配るまでの日数も短く収まります。
子どもが教室で使う教材は、日本語をやさしく書き直す
在籍する学級の授業で使う教材は、母語に訳した版ではなく、日本語の学習段階に合わせて書き直した版が必要です。子どもは教科の内容を学びながら、授業で使われる日本語そのものを身につけていく段階にあるためです。
日本語指導が必要な児童生徒には、文部科学省が定める特別の教育課程による日本語指導が置かれています。特別の教育課程とは、日本語の指導を教育課程の一部として位置づけ、児童生徒ごとの日本語の習得状況に応じて指導の内容を組み立てる仕組みです。
リライト教材とは何か?
リライト教材とは、教科の教材や問題文の文章を、子どもの日本語の学習段階に合わせて書き直した教材です。学ぶ内容そのものを減らすのではなく、一文を短く区切り、語彙を平易な語に置き換えて、教科の内容を保ったまま読める形にします。
書き直す側は、その単元で読み取ってほしい内容の範囲を先に決めます。範囲を決めずに言葉だけをやさしくすると、もとの教材の記述から要点が落ちたまま短くなってしまいます。
ルビと分かち書きは、日本語の学習段階に応じて減らす
ルビと分かち書きは、同じ量を付け続けるのではなく、読みの練習が進むにつれて量を減らします。文の切れ目を示す方法として使うのが分かち書きです。分かち書きとは、語と語の間に空白を置いて切れ目を示す書き方です。
段階に応じて量を減らしていけば、子どもは学年相当の教材をルビなしで読む練習に移れます。制作の側では、ルビと分かち書きの量が異なる版を複数作ることになるため、どの段階に向けた版なのかを教材ごとに決めておきます。
翻訳を見込んだ紙面は、日本語版のまま組まない
翻訳版を作る予定がある文書は、日本語版と同じ紙面には収まらない前提で組む必要があります。同じ内容でも言語によって文字量が変わり、日本語版に合わせて詰めた枠には、訳した文章が収まりきらないためです。
文字を流し込む枠に余裕を持たせておけば、行数が増えた言語の版でも枠を作り直さずに済みます。表や見出しの位置を言語版どうしで揃えておくと、内容を照らし合わせる確認も一度で終わります。
図版と写真を増やすと、言葉に頼らずに伝えられる部分が残る
場所や順序を示す看板のように、文章を図版や写真に置き換えておけば、どの言語版でも同じことを伝えられます。文章の分量が減るぶん、翻訳を依頼する量も抑えられます。
大寳製版株式会社には、作業の工程をアニメーションで示し、多言語に対応したデジタルマニュアルを制作した実績があります。どこまでを図に置き換えるかの判断は、教材でもマニュアルでも同じです。
よくある失敗
機械翻訳の出力をそのまま配ってしまう
機械翻訳は下訳として使えますが、出力を確認しないまま配ると、学校で使う言葉が別の意味に訳されたまま残ります。家庭訪問、個人懇談、引き渡し訓練のように、学校の外では使われない言葉ほど訳し方が揺れます。
配る前に、その言語が分かる人に読んでもらい、学校用語の訳し方を確認します。確認した訳語を一覧にして残しておけば、次の文書からは同じ訳語を使えます。
日本語版だけを改訂して、翻訳版が古いまま残る
日本語版を直したときに翻訳版の改訂を決めていないと、提出の期限や持ち物が古いままの翻訳版が家庭に残ります。日本語版を読める家庭と読めない家庭とで、届いている内容が食い違ってしまいます。
改訂のたびに全言語版を作り直すのか、変更した箇所だけを差し替えるのかを、最初の版を作る段階で決めておきます。差し替えで運用するのであれば、どこを直したのかが分かる形で版を管理します。
多言語に対応する学習支援コンテンツの制作は大寳製版株式会社へ
大寳製版株式会社は1967年の設立から、教材・学習参考図書の制作で50年以上の実績を重ねてきた教材制作会社です。愛知県春日井市を拠点に、組版・図版の制作からデジタル教材制作までを扱っています。
大寳製版株式会社には、子ども向けの地図教材である学習世界地図シリーズの改訂で、小学校の中学年・高学年に向けた組版・イラスト・図版の作成を手がけた実績があります。読み手の学年に応じて語彙と図版の見せ方を変える作り方は、日本語の学習段階に応じた教材でも同じ考え方で組み立てられます。
多言語に対応する配布物や学習支援コンテンツの制作を検討しているご担当者様は、大寳製版株式会社へお気軽にお問い合わせください。教材のデジタル化とあわせた進め方についても、ご相談いただけます。
よくある質問
- Q. 母語への翻訳と、やさしく書き直した日本語は、どちらを先に用意すればよいですか?
- A. 就学の案内など保護者が読んで判断する文書には母語への翻訳を、教室で子どもが使う教材には日本語の書き直しを先に用意します。読み手と用途で分かれます。
- Q. やさしい日本語とは何ですか?
- A. 難しい言葉を平易な語に言い換え、一文を短く区切り、漢字にふりがなを付けて、日本語に不慣れな人にも分かりやすくした日本語です。出入国在留管理庁と文化庁が2020年8月に公開したガイドラインにまとめられています。
- Q. 学校からのお知らせは、すべて自前で翻訳する必要がありますか?
- A. 文部科学省のかすたねっとで、学校が使う定型文書の多言語版が公開されています。欠席や行事の連絡のような定型的な内容は、公開されている文書を探してから、足りない部分だけを用意します。
- Q. リライト教材とは何ですか?
- A. 教科の教材や問題文の文章を、子どもの日本語の学習段階に合わせて書き直した教材です。学ぶ内容を減らすのではなく、一文を短く区切り、語彙を平易な語に置き換えます。
- Q. ルビはすべての漢字に付けたほうがよいですか?
- A. 読みの練習が進む段階では、ルビと分かち書きの量を減らしていきます。同じ量を付け続けると、ルビなしの文を読む練習の機会が減ってしまいます。
- Q. 翻訳版を作る予定がある場合、日本語版の紙面はどう作ればよいですか?
- A. 言語によって文字量が変わるため、日本語版と同じ枠には収まらない前提で組みます。文字を流し込む枠に余裕を持たせておけば、行数が増えた言語の版でも枠を作り直さずに済みます。
- Q. 機械翻訳を使ってはいけませんか?
- A. 下訳としては使えます。ただし学校用語の訳し方が揺れるため、配る前にその言語が分かる人に読んでもらい、訳語を確認してから配ります。
- Q. 多言語に対応する配布物や教材の制作は、大寳製版株式会社に相談できますか?
- A. 組版・図版の制作やデジタル教材制作についてご相談いただけます。多言語版を見込んだ紙面の作り方や、教材のデジタル化とあわせた進め方についてもお問い合わせください。
まとめ
母語への翻訳と、日本語をやさしく書き直した版は、どちらかを選ぶ代替の手段ではありません。保護者が読んで判断する文書は母語へ翻訳し、子どもが教室で使う教材は日本語の学習段階に合わせて書き直します。
2026年現在、多言語の学校案内や母語での相談を用意する自治体の取り組みが、文部科学省の事例として公表されています。配布物を作る側では、翻訳版の数と紙面の作り方を最初に決めておくと、改訂のたびに版の内容がずれる事態を避けられます。
大寳製版株式会社は、教材制作会社として組版・図版の制作からデジタル教材制作までを扱っています。多言語に対応する学習支援コンテンツの制作は、お気軽にお問い合わせください。
※本コラムはAIツールを補助的に活用し、内容の最終確認・編集は担当者が行っています。必要に応じて公表資料・一次情報を確認のうえ掲載しています。