時間をかけて作り込んだ図解なのに、学習者がどこを見ればよいか迷って説明が頭に入らないという声は、デジタル教材や研修資料を作る現場で繰り返し聞かれます。
東京理科大学が2026年に発表した実験では、図解やスライドの情報を説明の進行に合わせて少しずつ見せると、学習効果が高まることが確認されました。
この記事では、実験で示された累積提示法の内容を整理し、その知見をデジタル教材制作へ活かすポイントを、教材・学習参考図書の制作で50年以上の実績をもつ大寳製版株式会社の視点から解説します。
目次
累積提示法とは?東京理科大学の実験が示した学習効果
累積提示法とは、スライドや図解に載せる情報を、話し手の説明の進行に合わせて少しずつ画面へ追加していく見せ方のことです。
最初から完成形を見せる方法は一斉提示と呼ばれ、累積提示法と対になる用語です。どちらも説明の内容は変わらず、違いは情報が現れるタイミングだけにあります。
東京理科大学が実施したスライド提示方法と学習効果の実験(2026年)では、大学生を2つのグループに分け、音声の説明は同じままスライドの見せ方だけを変えた授業動画で学習させました。
実験の結果、累積提示法で学んだグループは、学習後テストの得点が一斉提示のグループより有意に高くなりました。研究成果は2026年6月25日に国際学術誌「Journal of Computer Assisted Learning」へ掲載されています。
視線計測で分かった注意の動き
学習効果の差を生んだ要因は、実験中に計測された視線のデータから読み取れます。累積提示法の条件では、学習者の視線が説明に対応する箇所へより早く向かい、より長くとどまっていました。
情報が少しずつ現れる画面では、新しく追加された要素へ自然に目が向きます。提示の順序そのものが、いま説明されている場所へ視線を導く手がかりとして働いていたと考えられます。
教材を作る立場で注目したいのは、特別な機器も新しい教材もいらず、見せ方の工夫だけで学習者の注意を導けるという点です。
作り込んだ図解を最初から全部見せてしまう失敗
教材作りでよくある失敗は、時間をかけて仕上げた図解を、最初から完成形のまま学習者へ見せてしまう進め方です。
図解に含まれる情報が多いほど、学習者の視線は説明と関係のない場所へ流れてしまいます。紙面用の一枚図解をそのまま画面に載せただけのデジタル教材だと、このような状況が特に起こりやすくなります。
図解そのものの完成度に加えて、情報が現れる順番までを教材の出来栄えとして扱う視点が、実験の知見を活かす入り口になります。
段階的な情報提示はなぜデジタル教材と相性が良いのか?
段階的な提示とデジタル教材の相性が良い理由は、紙では難しい時間差のある表示を、標準の機能で実現できるためです。
紙の紙面では、ページを開いた瞬間にすべての情報が同時に目へ入ります。一方、デジタル教材では、タップやクリックの操作、あるいは自動再生に合わせて、要素を1つずつ画面へ追加できます。
2026年現在、GIGAスクール構想によって小中学校では1人1台端末の環境が定着し、タブレットの画面で教材を読む場面が日常になりました。企業でも、eラーニングや研修動画など画面で学ぶ研修が広がっています。
GIGAスクール構想とは、2019年度に始まった全国の児童生徒へ1人1台の学習端末と高速大容量の通信ネットワークを整備する文部科学省の施策のことです。
せっかく端末が行き渡っても、紙面をそのまま画面へ置き換えただけの教材では、表示を制御できるという画面ならではの自由度が活かされません。
だからこそ、教材をデジタル化するときは、紙面をどう画面へ収めるかではなく、どの情報をどの順番で見せるかに気を配りましょう。提示の順番まで決め直して初めて、1人1台端末の環境が学びの変化につながります。
大寳製版株式会社は、印刷用の組版データを電子書籍化し、図版に動きを加えた「動く図版」のサンプルコンテンツを公開しています。
動く図版とは、紙の教材に載せていた地図や図解を、情報が説明の流れに沿って段階的に現れるように作り替えたアクティブコンテンツのことです。歴史の流れを動く地図で追える動く図版のサンプルコンテンツは、紙では伝えきれない時間の変化を視覚的に補うことができます。
紙の図版に提示の順序を加える作り方
手元の紙教材を段階提示型へ作り替える場合は、既存の図版を要素ごとに分け、それぞれに表示のタイミングを割り当てる工程を挟みます。
大寳製版株式会社の中学生向け社会教材のデジタル化事例では、ページをめくる感覚を残した電子書籍に、タップで解答の表示と非表示を切り替える機能を組み合わせました。
元の組版データやイラストのデータが残っていれば、流用できる範囲が広がり、費用も期間も抑えられます。作り替えを検討する際は、元データの有無を最初に確認しておくと進めやすくなります。
動きを盛り込みすぎて注意が散らばる失敗
注意したいのは、アニメーションや色の変化を増やすほど学習効果が上がるという思い込みです。段階提示の効果は、学習者の注意を説明へ導くことから生まれます。
説明と対応していない動きはノイズとなり、学習者の集中力を減退させます。打ち合わせでは、加えたい動きが説明のどの一文に対応するかを1つずつ確かめると、盛り込みすぎを防げます。
提示の順序はどう決める?教材制作で押さえるポイント
提示の順序は、制作が始まる前の原稿と構成を固める段階で決めておくことが肝心です。どの要素をどの説明に合わせて出すかが決まっていれば、図版の分割も動きの実装も迷わず進みます。
ストーリーボードで提示の順序を共有する
ストーリーボードとは、各画面に何を表示し、どの操作やタイミングで次の要素を出すかを、制作前に絵と文字で書き出した資料のことです。eラーニングコンテンツ制作や研修動画制作の現場で広く使われています。
発注する側がストーリーボードまで仕上げる必要はありません。説明の順序と、各段階で見せたい要素を整理したメモがあれば、教材制作会社との打ち合わせは具体的に進められます。
一枚絵の図版を後から分割しようとする失敗
発注で見落とされやすいのは、図版を一枚の完成画像として納品してもらった後で、段階提示型へ作り替えようとする進め方です。統合された画像は要素の分解に手間がかかり、追加の費用と期間が発生します。
段階的な提示を少しでも検討しているなら、最初の見積もりの時点でその希望を伝え、図版データを要素ごとに分けた形で作ってもらうのが確実です。
大寳製版株式会社のような、組版から図版・イラスト・アクティブコンテンツまでを一気通貫で扱う教材制作会社には、図版を作る段階から要素ごとのデータの持ち方まで含めてご相談いただけます。
まとめ:図解は説明に合わせて少しずつ見せる
東京理科大学の実験は、同じ説明でも情報の見せ方だけで学習効果が変わることをデータで示しました。累積提示法の考え方は、学校の授業だけでなく、eラーニングコンテンツ制作や研修資料の作成まで幅広く応用できます。
デジタル教材制作で成果を分けるのは、情報が現れる順序を制作前に決めておけるかどうかです。1967年の設立から教材・学習参考図書の制作を続けてきた大寳製版株式会社は、紙の図版で培った情報整理の力を、段階的に見せるデジタル図版づくりに生かしてきました。
教材のデジタル化や、学習効果を意識した図版の作り替えを検討しているご担当者様は、大寳製版株式会社へお気軽にご相談ください。
よくある質問
- Q. 累積提示法とは何ですか?
- A. スライドや図解の情報を、説明の進行に合わせて少しずつ追加して見せる提示方法です。東京理科大学の実験で、最初から完成形を見せる一斉提示より学習後テストの得点が高くなることが確認されています。
- Q. 累積提示法はなぜ学習効果が上がるのですか?
- A. 視線計測により、学習者の視線が説明に対応する箇所へ早く向かい、長くとどまることが確認されたためです。新しく現れた情報へ自然に注意が向き、説明と画面の対応がとりやすくなります。
- Q. 紙の教材でも段階的な提示はできますか?
- A. ページをめくる構成や解答隠しの仕掛けである程度は再現できます。ただし1つの図解の中で情報を順に出す提示は、タップや自動再生で表示を制御できるデジタル教材の方が自由に実現できます。
- Q. 手元にあるPDFやスライド教材を段階提示型に作り替えられますか?
- A. 図版を要素ごとに分解し、表示のタイミングを割り当てることで作り替えられます。組版データやイラストの元データがあると流用できる範囲が広がるため、見積もりの際に元データの有無を伝えるとスムーズです。
- Q. アニメーションを増やすほど学習効果は上がりますか?
- A. 上がりません。段階提示の効果は視線を説明へ導くことから生まれるため、説明と対応しない動きはかえって注意を散らします。動きは説明の順序に合わせて必要な箇所だけに絞ることをおすすめします。
- Q. 段階提示のデジタル教材制作を外注するとき、何を伝えればよいですか?
- A. 説明の順序と、各段階で見せたい要素を整理したメモを共有してください。図版を一枚絵ではなく要素ごとに分けて作る必要があるため、見積もりの段階で段階提示の希望を伝えると費用と期間の面で有利です。
- Q. 企業の研修動画やeラーニングにも累積提示法は使えますか?
- A. 使えます。東京理科大学の研究でも、企業研修やオンライン学習への活用可能性が示されています。研修動画制作では、ナレーションに合わせて図の要素を順に表示する構成が累積提示法と同じ働きをします。
- Q. 大寳製版株式会社ではどのような制作に対応していますか?
- A. 教材・学習参考図書の制作で50年以上の実績があり、組版・図版・イラストのほか、アクティブコンテンツ・電子書籍・動画・3Dのデジタルコンテンツに対応しています。紙の図版を段階提示型のデジタル図版へ作り替える制作についてもご相談いただけます。
※本コラムはAIツールを補助的に活用し、内容の最終確認・編集は担当者が行っています。必要に応じて公表資料・一次情報を確認のうえ掲載しています。