文部科学省は2026年8月28日に令和9年度概算要求の資料を公開しました。次年度に国がどの事業へ費用を要求しているかが、この時点で読めるようになります。
教材を作る側に関わりが深い項目は3つあります。情報活用能力の学習者用教材の開発と、学校のAI活用環境の整備と、デジタルな形態を含む教科書の配信基盤です。
本記事では3つの項目の中身を先行実施と導入の時期とあわせて解説します。
目次
概算要求の読み方
概算要求の資料は、次年度に国が何を進めようとしているかを知る材料として読むものです。書かれている金額がそのまま決まるわけではありません。
概算要求とは何か?
概算要求とは、各省庁が翌年度に必要な経費を財務省へ要求する手続きです。期限は毎年8月末です。各省庁は次年度に進めたい事業と必要な額をここで要求します。
財務省が公表した令和9年度予算の概算要求に当たっての基本的な方針(2026年7月30日閣議了解)によると、要求と要望は8月末日の期限を厳守するよう定められています。期限の後に各省庁の資料が公開され、今回の文部科学省の資料もその1つです。
つまり、8月末までに財務省へ翌年度の経費を要求する手続きが概算要求であり、出そろった要求は予算編成で額が見直される前の姿です。
要求額の精査
令和9年度の要求には、上限を設けない投資枠が含まれています。額は予算編成の過程で精査されるため、要求額のまま決まるとは限りません。
同じ閣議了解では、通常歳出とは別に「強く豊かな日本」投資枠を創設し、要求上限を設けず事項要求も含めて所要額を要求するとしています。通常歳出との関係は予算編成過程において精査すると記されています。
そのため、令和9年度の要求は上限のない投資枠を含み、額は予算編成の過程で精査されます。教材に関わる項目も、この段階では方向と規模の目安として読む段階です。
文部科学省の要求総額の傾向
文部科学省の要求総額は、前年度の予算から大きく増えています。増えた分の多くは投資枠で要求されています。
先端教育オンラインの記事(2026年9月1日)によると、一般会計は8兆7750億円で前年度から2兆8941億円の増と報じられています。増額の幅だけを見ると、教育分野の事業が一斉に拡大するように読めます。
これは前年度の予算から大きく増えた要求ですが、増えた分の多くは投資枠です。リシードの記事(2026年8月31日)では投資枠が2兆1830億円と伝えられており、編成過程で精査される部分にあたります。要求額の大きさをそのまま次年度の事業規模と受け取らないほうが無難です。
概算要求の項目は、額ではなく次年度の国の事業の方向を知る材料として読むものです。次の節からは、その材料のうち教材制作に関わる3つの項目を扱います。
情報活用能力の教材の開発の進め方
情報活用能力を育てる新しい教科と領域の学習者用教材は、国が民間へ委託して開発し、先行実施の時期から学校で使えるよう要求されています。
小中学校の科目への情報領域の追加
次期学習指導要領では、小学校の総合的な学習の時間に情報の領域が加わり、中学校には情報・技術科が創設されます。教材はこの2つに向けて作られます。
リシードの記事(2026年6月11日)によると、小学校では総合的な学習の時間に「情報の領域(仮称)」を新設する方針と報じられています。中学校では、現在の技術・家庭科を分離して情報技術に関する内容を抜本的に強化した「情報・技術科(仮称)」を創設するとしています。
これは小学校の総合に情報の領域が加わり、中学校に情報・技術科が創設される再編にあたります。情報技術の内容を強化した教科になるため、現行の技術分野向けの教材とは扱う範囲が変わります。
学習者用教材の開発・検証の費用
新しい教科と領域の学習者用教材は、国が開発して実証校で検証する事業として要求されています。額は5億円です。開発は民間事業者等への委託で進みます。
文部科学省の令和9年度概算要求 主要事項(初等中等教育局)には、教師が新たな学習内容を過度な負担なく指導できるようにするための学習者用教材を開発すると書かれています。開発した教材は実証校で実践と検証を行い、事業は民間事業者等への委託で1か所と記されています。
つまり、学習者用教材の開発と実証校での検証に5億円が要求されており、教材の制作そのものは委託先の事業者が担います。教材制作会社にとっては、学校や教育委員会からの直接の発注ではなく、委託事業の枠で動く費目です。
教材の先行実施の予定
教材は、令和10年度以降の先行実施を含めて用意されます。全面実施を待たずに部分的な指導ができるよう経過措置が検討されているためです。
主要事項では、先行実施の期間も含め全国どの学校でも確実に実施できるよう学習者用教材を開発すると説明されています。注記には、令和10年度以降に段階的に新教科・領域を先行実施するための経過措置を講ずる方向で検討すると記されています。
これは、教材が令和10年度以降の先行実施を含めて用意されることを意味します。次期学習指導要領の全面実施より前に教材が必要になるため、制作の時期は全面実施の年度から逆算するより早くなります。
情報活用能力の学習者用教材は、国の委託で開発され先行実施の時期から使われます。教材制作会社が関わるとすれば委託事業の枠であり、時期は令和10年度が目安になります。
AI活用環境の要求のうち教材に関わる部分
学校のAI活用環境の要求は金額が大きい項目ですが、その大半はクラウド環境の整備です。教材に関わる部分は、学習指導要領などのデータの機械可読化に限られます。
クラウド環境への予算の割り当て
AI活用環境の整備に要求された884億円は、主にクラウド環境の整備にあてられます。教材の開発費ではありません。
先端教育オンラインの記事(2026年9月1日)によると、学校現場における安全かつ主体的なAI活用環境整備に884億円を投資枠で計上し、AI利活用に向けたクラウド環境整備を推進すると報じられています。額の大きさに比べて教材そのものへの言及はありません。
つまり、884億円の主な使い道はクラウド環境の整備です。学校のシステムをクラウドへ移す費用が中心であり、学習者が使う教材の制作費として読むと見誤ってしまいます。
データの機械可読化の整備要求
教材に関わる整備は、学習指導要領や解説のデータを機械可読化して構造化する事業です。AIで教材を扱う前提として要求に含まれています。
主要事項には、国等が作成している学習指導要領や解説と参考資料等のデータを機械可読化・構造化すると書かれています。あわせて、著作権者等の権利に配慮しつつ、自治体が持つ指導案のデータや教科書発行者が持つ教科書等のデータを整備し、その利活用に関する実証と実装を推進すると記されています。
これは、学習指導要領や解説のデータを機械可読化する整備が要求に含まれていることを表します。現状は紙での管理やPDF形式での保存が多く機械可読化されていないという課題も同じ資料に書かれており、教材データの形式そのものがAI活用の条件として挙げられています。
AI活用環境の要求では、教材に関わる部分が学習指導要領などのデータの機械可読化に限られます。金額の大きさはクラウド環境の整備によるもので、教材制作の費目とは切り分けて読む必要があります。
デジタル教科書配信基盤の配信予定時期は?
デジタルな形態を含む教科書の配信基盤は、令和12年度の導入に向けて整備されます。令和9年度の要求では、配信の仕組みを整える調査事業が新規で挙がっています。
新たな教科書の形態はどうなるのか?
改正された学校教育法では、紙とデジタルとハイブリッドの3形態が正式な教科書になります。導入は2030年度以降の予定です。
共同通信の記事(2026年6月10日)によると、新制度では紙・完全デジタル・ハイブリッドの3種類が正式な教科書となり、小中学校で無償配布されると報じられています。導入は次期学習指導要領が小学校で全面実施される2030年度以降の方針と伝えられています。
これは紙とデジタルとハイブリッドの3形態が正式な教科書になり、2030年度以降に導入されるという制度の変更です。どの形態を使うかは各教育委員会が選ぶため、紙だけの学校とデジタルを含む学校が同時に存在する制度になります。
標準仕様書に基づく配信の調査事業
令和9年度の要求では、標準仕様書に基づく配信の調査事業が新規で挙がっています。環境整備全体の額は25億円であり、配信基盤のビューアの改修と配信の実証が含まれます。
主要事項には、標準仕様書に基づく教科書の配信に関する調査事業が596百万円の新規事業として書かれています。令和8年度中に策定する標準仕様書に基づき、教科書のデジタル部分の配信基盤であるビューアを改修すると記されています。
つまり、標準仕様書に基づく配信の調査事業が新規で要求されており、配信の仕組みは令和8年度中の仕様策定を受けて令和9年度に改修と実証へ進みます。
先端教育オンラインの記事(2026年9月1日)でも、デジタルな形態を含む教科書に向けた環境整備に25億円を計上したと報じられています。配信の仕様が固まる時期と実証の時期が、この要求から読み取れます。
教科書の検定と採択のための期間
教科書は検定と採択を経るため、児童生徒に届くまでにおよそ4年かかります。配信基盤の整備と並行して教科書側の工程も進みます。
日経クロステックの記事(2025年10月20日)によると、新たな教科書が児童生徒に供与されるまでは検定や教育委員会などによる選定作業があるため、おおよそ4年かかると報じられています。2030年度の導入から逆算すると、制作の工程は令和8年度から令和11年度にかけて進む計算です。
これは、教科書が検定と採択を経るため供与までおよそ4年かかることを表しています。教材を作る側から見ると、配信の仕様と教科書の内容が同じ時期に固まっていく段階にあたります。
デジタルな形態を含む教科書の配信基盤は、令和12年度の導入に向けて整備されます。令和9年度は仕様に沿った改修と実証の年であり、教科書の制作と検定が並行して進む時期に重なります。
まとめ
令和9年度概算要求で教材制作に関わる項目は3つあり、いずれも令和10年度以降の先行実施と令和12年度の導入に向けた準備の費目です。
情報活用能力の学習者用教材は国の委託で開発され、AI活用環境ではデータの機械可読化が教材に関わり、デジタルな形態を含む教科書は配信基盤の整備が進みます。
要求額は年末の予算編成で見直されるため、金額よりも事業の方向と時期を読み取る使い方が合っています。次年度の教材制作の時期の見通しについては、大寳製版株式会社へもご相談ください。
教材のデジタル化と教材制作は大寳製版株式会社へご相談ください
大寳製版株式会社は、自社の実績として教材・学習参考図書の制作に50年以上携わってきた教材制作会社です。企画・組版・図版・動画・3Dから印刷までを社内で担い、紙の教材とデジタル教材制作の両方に一気通貫で対応しています。
紙の教材をデジタルへ移す取り組みでは、中学生向けの社会科教材を紙面ベースの電子書籍にデジタル要素を重ねてデジタル化した事例があります。既存の紙面を生かしながら、解答の表示切り替えと繰り返し学習の機能を加えて教材のデジタル化を進めました。
次期学習指導要領に向けた教材の改訂や、先行実施の時期に合わせたデジタル教材制作の計画についても、大寳製版株式会社へお気軽にご相談ください。
よくある質問
- Q. 概算要求の額はそのまま予算になりますか?
- A. なりません。概算要求は各省庁が8月末までに出す要求の段階の額であり、年末の予算編成の過程で精査されます。次年度の事業の方向と時期を知る材料として読むのが合っています。
- Q. 教材制作会社が直接関われる項目はありますか?
- A. 情報活用能力の学習者用教材の開発は、民間事業者等への委託で進む事業として要求されています。委託の枠組みの中で関わる形になります。教材制作の相談は大寳製版株式会社へもお問い合わせください。
- Q. 情報活用能力の教材はいつから必要になりますか?
- A. 令和10年度以降に新教科・領域を段階的に先行実施する経過措置が検討されており、教材はその時期を含めて用意されます。全面実施の年度より前に準備が必要になります。
- Q. デジタルな形態を含む教科書はいつから使われますか?
- A. 2030年度(令和12年度)以降の導入が予定されています。紙・完全デジタル・ハイブリッドの3形態が正式な教科書になり、どの形態を使うかは各教育委員会が選びます。
※本コラムはAIツールを補助的に活用し、内容の最終確認・編集は担当者が行っています。必要に応じて公表資料・一次情報を確認のうえ掲載しています。