機械のそばに貼られた警告表示と、新しく配属された作業者に向けた安全教育の資料は、どちらも機械の危険を作業者へ知らせるための手段です。
厚生労働省が公表した令和7年の労働災害発生状況(2026年5月27日)によると、休業4日以上の死傷者数は製造業で26,371人となり、事故の型別では「はさまれ・巻き込まれ」による死亡者数が前年より7人多い117人という結果でした。
機械の警告表示には危害の内容と禁止事項・行うべき事項を記載し、表示に記載しきれない危険を作業手順と安全教育の資料で同じ言葉を用いて補っておけば、表示と教育で1つの危険を同じ内容として作業者へ説明できます。
本記事では、警告表示が機械の保護方策のどこに位置するのかと、表示に記載する事項と教育で補う範囲の違いを解説します。
目次
機械の保護方策で警告表示が占める位置
警告表示は機械の危険を減らす手段の1つであり、ほかの手段を講じた後に存在する危険を知らせる役割を持ちます。表示を作成する際は、表示で対応する範囲をほかの手段との関係で捉える必要があります。
使用上の情報とは何か?
警告表示は、機械の安全を扱う指針のなかで使用上の情報という区分に含まれます。
厚生労働省の機械の包括的な安全基準に関する指針(2007年改正)では、使用上の情報が「製造等を行う者が、標識、警告表示の貼付、信号装置又は警報装置の設置、取扱説明書等の交付等により提供する指示事項等の情報」と定められています。
使用上の情報とは、製造者が警告表示の貼付や取扱説明書の交付などで提供する指示事項等の情報です。警告表示と取扱説明書は同じ枠に含まれるため、機械に貼る表示と手元で読む文書は、別々に作成されても1つの情報の一部として扱われます。
保護方策を講じる優先順位
保護方策とは、機械の危険を減らすために講じる措置のことです。本質安全設計は機械の構造そのものを改めて危険をなくすか小さくする方法で、安全防護はガードや保護装置で人と危険な箇所を隔てる方法にあたります。
産業安全研究所の工作機械関連作業のリスク低減のためのアセスメント手法に関する調査(1999年)は、本質安全設計で除去し得ないリスクを安全防護物などで低減し、「残存リスクに関しては使用者に対し情報の提供を行い,かつ警告する」と報告しています。
機械安全の考え方では、保護方策の優先順位は本質安全設計と安全防護と使用上の情報の順とされています。優先順位に沿えば、警告表示が対象にするのは設計と防護で取り除けなかった危険に限られます。
表示を作成する段階では、表示の対象にする危険がどの手段を講じても取り除けなかったものかを確かめられます。
安全防護を警告表示で代替できるのか?
ガードや保護装置を付けるべき箇所に表示を貼っても、保護方策を講じたとはみなされません。
厚生労働省の機械の包括的な安全基準に関する指針(2007年改正)では、「本質的安全設計方策、安全防護又は付加保護方策を適切に適用すべきところを使用上の情報で代替してはならない」と定められています。
安全防護を適用すべき箇所を警告表示などの使用上の情報で代替することは認められていません。表示の作成を依頼される場面でも、表示を貼る箇所に防護の手段があるかが前提になります。
注意表示を足すだけの対策で取り除かれないもの
表示の貼付と手順書の追記は短い期間で済むため、設備の改修より先に選ばれやすい対策です。
MONOistが2026年10月26日に掲載した機械安全の連載記事は、危険な部分をそのままにして「注意表示を貼り、手順書へ注意事項を追加します」という対策について「危険源は何も変わっていません」と報じています。
注意表示と手順書の注意事項を足すだけの対策では、危険源そのものは取り除かれません。表示を増やしても危険源が存在するため、表示は作業者の判断に頼る対策にとどまります。
機械の警告表示は、保護方策のうち最後に講じる対策に位置づけられます。
警告表示には何を記載するのか?
警告表示は、危険があることを知らせるだけでなく、作業者がその場で取る行動を指示する役割を持ちます。記載する事項が定まっていれば、表示の文言を作成する際に迷う範囲が狭まります。
標識と警告表示に求められる要件
標識と警告表示の要件には、危害の説明と行動の指示の2つを1枚の表示に含める形が定められています。
厚生労働省の機械の包括的な安全基準に関する指針(2007年改正)の別表第5では、標識と警告表示について「危害の種類及び内容が説明されていること」「禁止事項又は行うべき事項が指示されていること」「明確かつ直ちに理解できるものであること」と定められています。
標識と警告表示は、危害の種類と内容を説明し、禁止事項か行うべき事項を指示するものです。どちらか一方だけの表示では、作業者は危険の中身か取るべき行動のどちらかを知らないまま作業に向かうことになってしまいます。
警告表示が機能するための前提
表示が機能するのは、作業者が表示を読み、内容を理解し、そのとおりに動いたときに限られます。
MONOistが2026年10月26日に掲載した機械安全の連載記事は、表示や教育について「人が常に危険を認識し、正しく判断して行動することを前提としている」と伝えています。
警告表示は、人が危険を認識して正しく判断し、行動することを前提にした対策です。表示の文言は、急いでいる作業者や経験の浅い作業者が読んでも同じ行動に至る形が求められます。
危害の内容と取るべき行動を併記した表示
禁止だけを記載した表示では、作業を止められた作業者が次に何をすればよいのかを表示から判断できなくなってしまいます。
そのため、警告表示へ危害の内容と取るべき行動を併記しておけば、表示を見た作業者が禁止の理由と代わりに取る行動を把握できます。可動部へ手を入れることを禁じる表示であれば、挟まれるおそれがあることと、詰まりを取り除く際の手順を並べて記載できます。
機械の警告表示に記載する事項は、危害の内容と作業者が取るべき行動です。
警告表示に記載しきれない危険はどう補うのか?
機械に貼れる表示の大きさと文字数には限りがあり、危険が生じる作業の手順までは記載しきれません。表示に収まらない内容は、作業手順書と安全教育の資料に記載されます。
機械を譲渡する者が事業者へ通知する事項
機械を導入する事業者の手元には、危険な箇所と作業ごとの危険を記載した文書が届くことがあります。
労働安全衛生規則の第24条の13では、機械を譲渡・貸与する者が相手方の事業者へ通知するよう努める事項として危険のおそれがある箇所と、その箇所に起因する危険のおそれがある作業と、作業ごとの危険のうち「最も重大なもの」が定められています。
機械を譲渡する者には、危険な箇所と危険が生じる作業と、そのうち最も重大な危険を文書で事業者へ通知する努力義務があります。譲渡する者から届いた文書の内容を作業者向けの言葉に置き換えて安全教育の資料を作成しておけば、機械の製造者が想定した危険を教育の内容に含められます。
残留リスクを周知する作業手順と教育
残留リスクとは、保護方策を講じた後にも存在するリスクのことです。
厚生労働省の機械の包括的な安全基準に関する指針(2007年改正)では、機械を労働者に使用させる事業者の実施事項として「保護方策を実施した後の残留リスクを労働者に伝えるための作業手順の整備、労働者教育の実施等を行うこと」が定められています。
事業者が行う保護方策には、残留リスクを労働者へ周知する作業手順の整備と教育が含まれます。手順書と教育資料を作成する段階では、どの残留リスクを扱うのかを機械ごとに特定しておく必要があります。
雇入れ時の教育で扱う安全装置と作業手順
新しく配属された作業者は、機械の表示を見る前に教育で安全装置と作業手順を学ぶことになります。
労働安全衛生規則の第35条では、雇入れ時と作業内容の変更時に行う教育の事項として「安全装置、有害物抑制装置又は保護具の性能及びこれらの取扱い方法に関すること」と「作業手順に関すること」が定められています。
雇入れ時の教育の事項には、安全装置の取扱い方法と作業手順が含まれます。教育の資料に記載した内容は、作業者が表示を読むときの前提知識になります。
表示と教育資料で用いる言葉の統一
表示と資料で同じ危険の呼び方が異なると、作業者は表示の危険が教育のどの内容に当たるのかを判別しにくくなってしまいます。
そのため、警告表示と安全教育の資料で同じ危険を同じ言葉で記載しておけば、表示を見た作業者が教育で学んだ手順に結びつけられます。表示で挟まれのおそれと記載した危険は、教育資料でも挟まれのおそれという同じ語で扱う形です。
警告表示に記載しきれない危険は、事業者が整える作業手順と安全教育で補われます。
まとめ
警告表示と安全教育の資料は対象にする範囲が異なり、同じ危険を2つの手段で知らせる関係にあります。両者の言葉をそろえておけば、作業者は機械の前でも教育の場でも同じ危険を同じ内容として受け取れます。
機械の警告表示には危害の内容と禁止事項・行うべき事項を記載し、表示に記載しきれない危険を作業手順と安全教育の資料で同じ言葉を用いて補っておけば、表示と教育で1つの危険を同じ内容として作業者へ説明できます。
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参考事例
よくある質問
- Q. 機械の警告表示にはどのような事項を記載しますか?
- A. 記載する事項は、危害の種類と内容と、禁止事項か行うべき事項です。危害の内容と取るべき行動を並べて記載しておけば、表示を見た作業者が禁止の理由と代わりに取る行動を同じ表示で確かめられます。
- Q. 警告表示を貼れば機械の安全対策として足りますか?
- A. 警告表示は、機械の構造を改める対策やガード・保護装置による対策を講じた後に存在する危険を知らせるもので、最後の保護方策に位置づけられます。安全防護を適用すべき箇所を警告表示で代替することは認められていません。
- Q. 警告表示に記載しきれない危険はどのように作業者へ知らせますか?
- A. 事業者が整える作業手順と安全教育で補われます。表示と教育の資料で同じ危険を同じ言葉で記載しておけば、表示を見た作業者が教育で学んだ手順に結びつけられます。
- Q. 外国人スタッフ向けの安全教育の資料も相談できますか?
- A. 大寳製版株式会社には、製造業の企業様の安全教習用の動画内のテキストと音声をポルトガル語へ置き換えた事例があります。資料の内容や対象の言語についてはご相談ください。
※本コラムはAIツールを補助的に活用し、内容の最終確認・編集は担当者が行っています。必要に応じて公表資料・一次情報を確認のうえ掲載しています。