学習参考図書や教材を制作するとき、「どのフォントを使うか」という選択は、意外と後回しにされがちだ。デザインや色使い、図版の配置には気を配っても、フォントの選定は「いつものゴシック体」「明朝体にしておけば無難」で済ませてしまうことが少なくない。
しかし、学習の場では読みにくいフォントが学習効率に影響を与えることがある。特に、ひらがなの「ぬ」と「め」、カタカナの「ソ」と「ン」のように形が似た文字は、読者によっては混同しやすい。これを防ぐために設計されたのが「UDフォント(ユニバーサルデザインフォント)」である。
本記事では、教材制作の現場でUDフォントがどう活用されているか、組版の実務視点から整理する。フォントを選べば読みやすくなるのか——その答えも合わせて示す。
UDフォントとは何か
UDフォントとは、ユニバーサルデザイン(すべての人が使いやすいこと)の考え方を取り入れたフォントである。通常のフォントに比べ、以下の点が工夫されている。
- 「ぬ」と「め」「ソ」と「ン」のように形が似た文字を、より区別しやすく設計している
- 文字の線の太さや点・払いの形を整え、小さなサイズでも判読しやすくしている
- 字幅・字高のバランスを調整し、特定の文字が詰まって見えるのを防いでいる
読み書きに困難を感じる人(ディスレクシア:読み書き障害)への対応としても注目されている。学校教育の現場でUDフォントへの関心が高まっている背景には、インクルーシブ教育の推進がある。
教材制作でUDフォントが注目されている背景
学習参考図書や教材でUDフォントが話題になり始めたのは、インクルーシブ教育の推進と切り離せない。障害者差別解消法の施行(2016年)や文部科学省の特別支援教育・合理的配慮に関する方針変更により、「誰もが使いやすい教材」を意識する機運が高まった。
また、電子黒板やタブレット端末での学習が増えるなかで、「画面上での読みやすさ」も問われるようになっている。紙の教材と画面では、フォントの見え方が異なるため、選定の考え方も変わってくる。
さらに、教育デジタルコンテンツの制作においては、Webフォントとしての利用可否やライセンス条件も確認が必要になる。印刷物と同じ感覚でフォントを選ぶと、デジタル配信の場面でライセンス違反になるケースもある。UDフォントへの注目は、単なるデザイントレンドではなく、教材制作を取り巻く環境の変化を反映したものだ。
主なUDフォントの種類と特徴
現在、教材制作で使われることが多いUDフォントには以下のようなものがある。
UD新ゴ(モリサワ)
ゴシック体ベースのUDフォント。学習参考図書・ドリル・説明資料で広く採用されており、可読性と視認性のバランスが高い。太さのバリエーションが豊富で、見出しから本文まで使い分けやすい。
UDデジタル教科書体(モリサワ)
タブレット端末の画面表示を意識して設計されており、Windowsに標準搭載されているため追加費用なしで利用できる環境が整っている。学習参考図書・デジタル教材の双方に対応できる。
UD黎ミン(モリサワ)
明朝体系のUDフォント。文章量が多い参考書や解説文で長文の読みやすさを優先したい場合に向いている。ゴシック体より行読みしやすく、本文の疲労感を軽減できる。
有料ライセンスが必要なフォントが多く、印刷物・Webフォント・電子書籍など用途によってライセンスが異なる。制作前に利用範囲を確認しておくことが重要だ。
組版・レイアウトで注意したいポイント
UDフォントを使うだけで「読みやすい教材」になるとは限らない。組版やレイアウトの設計が組み合わさって初めて効果を発揮する。そして、もう一つ重要な前提がある。UDフォントはどこにでも使えばよいというものではない——使いどころを見極めることが、適切な活用の第一歩だ。
UDフォントの使いどころを見極める
UDフォントは可読性を高めるために、デザイン性をある程度抑えて設計されている。識別しやすさを優先した分、書体としての個性や装飾性は控えめになる。そのため、以下のような場面にはUDフォントは向かない。
- 表紙や章扉など、デザインとして「見せる」ことを重視する場面
- 大見出しや章タイトルのように、Q数(文字サイズ)が大きく元から可読性が十分に確保されている場面
- ロゴや装飾文字など、書体のデザイン性そのものが伝達の役割を担う場面
逆にUDフォントが力を発揮するのは、本文・注釈・図版キャプションのような「小さい文字で読まれる部分」や、子どもや識別に困難が生じやすい読者を想定した教材の本文テキストだ。適材適所の考え方で場面ごとに使い分けることが、読みやすい教材設計の基本になる。
文字サイズと行間の設定
UDフォントは文字間のゆとりを意識して設計されているが、行間(行送り)が詰まりすぎると本来の効果が半減する。教材では行送りを文字サイズの170〜180%程度に設定することが多い。フォントが変わっても、この数値をそのままにするのではなく、見た目で判断して調整することが大切だ。
見出しと本文のフォントを使い分ける
UDフォントを見出し・本文すべてに一律で使う必要はない。見出しには視認性の高いゴシック系、本文には長文向きの明朝系というように使い分けると、メリハリと可読性を両立しやすい。
欧文・数式との混植
学習参考図書では英単語・数式・記号が文中に混在することが多い。UDフォントと欧文フォントのサイズ・ベースラインが合わないと、文章のリズムが乱れ読みにくくなる。日本語UDフォントに対応した欧文フォントとの組み合わせを検討することが望ましい。
デジタル教材での追加考慮
画面表示では、コントラスト比(文字色と背景色の明るさの差)が読みやすさに直結する。UDフォントで字形の識別性を高めても、コントラスト比が低いと読み取りにくくなる。アクセシブルデザインの観点では、フォント選定とカラー設計を一体で考えることが求められる。
大寳製版の教材制作での取り組み
大寳製版株式会社は、1967年の設立以来、50年以上にわたって学習参考図書・教材の組版・レイアウト制作を手がけてきた。フォント選定はデザインの好みではなく、「読む人にとって負担がないか」という視点で判断している。
実際の制作現場では、クライアントから「UDフォントを使いたい」という要望を受けることが増えている。ただし、フォントが決まった後も、行間・文字サイズ・余白・図版との組み合わせなど、細かな設計が読みやすさに影響する。フォント選定は「出発点」であり、最終的な読みやすさは組版全体の設計で決まる。
教育デジタルコンテンツの制作においても、Webフォントの設定やレイアウトのCSSによる調整など、印刷物とは異なる考慮が必要になる。大寳製版では、紙の教材からデジタルコンテンツまで、一貫した制作サポートを行っている。
まとめ:UDフォントを使えば読みやすい、は半分正解
UDフォントは、教材の読みやすさ設計において有効な手段の一つだ。しかし、フォントを選ぶことはあくまでスタートに過ぎない。行間・文字サイズ・余白・図版配置・欧文処理など、組版全体の設計が組み合わさって初めて「読み手に負担のない教材」が完成する。
学習参考図書や教育デジタルコンテンツの制作を検討されている方は、フォント選定と同時に、組版・レイアウトの設計を一緒に相談できる制作会社を選ぶことが重要だ。大寳製版株式会社では、50年以上の教材制作の知見をもとに、フォント選定から組版・デジタルコンテンツ化まで対応している。お気軽にご相談いただきたい。
※本コラムはAIツールを補助的に活用し、内容の最終確認・編集は担当者が行っています。必要に応じて公表資料・一次情報を確認のうえ掲載しています。